『星の王子さま』
私がこの本に出会ったのは、たしか20代の頃だったので今から30年以上
も前のことになるでしょう。うっすらと覚えているのは白い本に赤い可愛い
リボンがついていたので、きっと誰かからプレゼントされたものだったのでしょう。
その頃の私は、たいへん固い頭の構造をしていたようです。
一日もあれば読んでしまえるこの本を、何年も何年も、引っ越しをした時も、
車で移動しながら生活をしていた時も、いつも私の1メートル圏内に置いて
いたのですが、いつしかその本は、ホコリだらけになってとうとうどこかに行ってしまいました。最後まで赤いリボンがついていたのを今でも時々思い
出すのです。
その本が私の相棒のように一緒に暮らしたのは10年ぐらいの間でした。た
ぶん最後は誰かにあげたんだと、うっすらと思えているのですが、誰にあげ
たかも、もう忘れてしまっているのです。
一月ぐらい前だったでしょうか、目の調子がすごく悪くなって、この調子で
行くとたぶんもうすぐ本は読めなくなる・・・と、思う時期がありました。
そこで、目の治療を始める前に、あとで後悔しないように、思い残すことが
ないように、今の自分にピッタリな本を何冊か読んでおこうと思って、関東
で一番大きな本屋さんに行って探した本が、この『星の王子さま』だったの
です。王子さまが、偶然に私の目の前に迫ってきたのです。
だから、この本にまためぐりあったその時は、興奮しました。ピッタリだと
思ったからです。おもわず小さな拍手をパチパチと静かな本屋さんでやって
しまいました。
この『星の王子さま』を皮切りに、目の治療の前の私の読みたい本は、童話
になっていきました。そして安房直子さんの文庫本『南の島の魔法の話』を
読み、おまけに『安房直子コレクション全7巻』を読み、その安房さんの解
説の中で説明されていた、童話をやって行く上で、ずいぶんと参考にさせて
いただいたと解説されていた宮沢賢治に入って行きました。
はじめて知ったんですが、宮沢賢治は生前に2冊の本しか出していませんで
した。その内の一冊は『心象スケッチ 春と修羅』という詩集で、これは事
実上は自費出版で、本格的に出した初本となる本が、『注文の多い料理店』
でした。この本はなかなか売れず、宮沢賢治はこの初本をイーハトーブ童話
集の第一巻目としてその後の童話シリーズを出そうとしていたのですが、あ
きらめたようです。
この『注文の多い料理店』の中で、私は『狼森と笊森、盗森』と『月夜ので
んしんばしら』が好きになりましたね。『狼森と笊森、盗森』は、私も好き
な場所で何回も行った小岩井農場のまわりの風景がよみがえって来て、蒼い
空にそびえる岩手山をついつい懐かしく思いました。私も岩手山を2回登っ
ています。
それと、『月夜のでんしんばしら』には驚きました。読んで行くと、途中で「なんじゃ、こりゃ?」と思いはじめたのですが、そのまま読んで行くうち
に宮沢賢治の心の中の創造力(これは想像力も含めた、つくり出す力です)
に感心してしまったのです。安房直子さんがたいへん参考になったのですと
言われていたことがガッテンでした。
さて、この目の治療の前の読書会。お陰さまで文庫本2冊、単行本7冊を無
事に読み込むことが出来ました。その全てが面白いことに『童話』になりま
した。一冊につき、アバウトですが10編の童話があったので、約90編の
童話を読ませていただいたことになります。
で、わかったことがあるんです。
私の頭は童話っぽい、てとこです。なので今は、しあわせ感がいっぱいです。
このしあわせ感をどう表現したらいいんだろう、と、お月さんを見始めまし
たから、さあたいへんです。何かが始まるやも知れません。
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