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バウの道中記 2006年1月3日 敦賀 |
【吹雪の中の水虫のうた】
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敦賀インターのバス停に降ろされたら、すでに周りは暗くなっていた。このバス停はどこにでもある不親切なバス停で、高速側の歩道に降ろされ、目の前の小さな小屋に一旦入り、その反対側の出口を出ると一般道というしろものだ。
不親切だというのはこの小屋である。このバス停から次ぎに目指す場所へのアクセス情報とか地図がほとんど掲示されていないので、殺風景なのである。
ライターに火を灯して、小屋の中にあった小さな張り紙を何とか目を近づけて読んでみたが、残念なことにこの場所と他の場所をむすぶ、路線バスはないらしくタクシー会社の案内すらもない。
あいにくこの時の私の携帯はバッテリーが切れていて、何処にも連絡がとれない状態で、暖房も何もない小屋の外は猛吹雪の状態で、真横に吹きすさぶ大きな雪の固まりの影
響で10メートル先さえ見えなくて、私はしばらく途方にくれて、なかなか外には出れないでいた。
その時、頭の中からオーケストラの響きが始まり、ティンパニーの音まで鳴り出した。この出だしの曲はいつも困った時に決まって出て来るあの曲のイントロだ。そのあとすぐに加藤さんの優しい包容力のある歌声が聞えて来た。
どんなに どんなに 離れていても
僕は君を 忘れはしない
夏になると思い出す 君と遊んだ この浜辺
切なく うずく 水虫は 僕と君との愛のしるし
どんなに どんなに 離れていても
僕は君を 忘れはしない
私はいつものように、体を揺らしながら頭の中のこの音に合わせて一緒に歌い出していた。吹雪の中の薄暗い小屋の中で50代のスキンヘッドのあやしい男が一人である。
私の頭の構造は実はすごく単純に出来ている。いつも思うのであるが実にバカで、真面目で、純粋な部分を未だに持ち続けている。これが私なりの持続可能な力の根源部分な
のかも知れない、と自分自身で思い込んでいる。
たぶんその逆の、ズル賢く、不真面目で、不純な人間にはこんな面倒なプロジェクトを立ち上げる気も起こらないであろう。
この歌を1フレーズ行ったところで、300キロカロリー、3フレーズ続けたところでカレーライス一杯分を超えるエナジーが私の体全体に生まれたようである。
私は思い切って吹雪の中に飛出した。小屋から右に出て20メートルほどの場所で公衆電話を発見出来たが、ボックス自体が雪に埋もれていて、ドアの中に入ることすら出来ない。
その先の高速入り口のゲートはもちろん無人化のため人が誰も居なかった。しかしその先30メートルぐらい行った所で懐中電灯らしきものを振り回している人たちを見つけて安堵した。
彼らはスノータイヤとか、チェーンを車が装填しているか確認するための職員らしく、その中のボス格の人がタクシー会社に連絡を取ってくれることになった。
小屋に戻る時に私はワダチに足を滑らせて、2回転倒した。
2回目の時は、突風でメガネが飛ばされ、それと同時に滑って転んだようである。一瞬の内に後頭部が凍った道路に打ちのめされていた。
私はわざとしばらくの間、顔を上にむけたまま、顔中に雪を溜め込みながらも静かにすることにした・・・・・
体のどこにも異常はないようだ・・・・・・
どんなに どんなに 離れていても
僕は君を 忘れはしない
夏になると思い出す 君と遊んだ この浜辺
切なく うずく 水虫は 僕と君との愛のしるし
どんなに どんなに 離れていても
僕は君を 忘れはしない
考えてみると、この歌は夏の歌である。こんな吹雪の中で横になりながら歌っている方がおかしい。そう思った瞬間、涙が流れて来た。
私が思い描く世界はまだまだ理解者が少ない。
だからまだまだ先の世界なのだ。
そのためにもっと動かなければ・・・・・・
日付が変わり、4日となった深夜0時、私はフェリーに乗船した。通常、車なしで乗船する人は待ち合わせ室から船に架けられた廊下風のタラップで乗船するが、この日は港の中まで風がきつくて、船揺れがすごいためタラップを引っ付けることが出来ないらしいのだ。
私たち数人は、船会社が用意した乗用車に乗り込み、トラック用の船のゲートから乗船した。
このフェリーは4日深夜1時台に敦賀港を出航して、同日4日の夜の8時台に苫小牧に着くはずだったが、荒天のため、8時間遅れになり、5日の朝方、3時に苫小牧に着岸
した。合計26時間、台風並みの大しけの中をさまよっていたことになる。
札幌のホテルに着いたのは5日朝の5時になっていた。それも体全体が揺れ動く船酔い現象を残したままである。
冬の前線が通過する日本海のフェリーの旅は気をつけよう!
一旦吹荒れると、快適な航海どころか後悔だけが吹荒れる。 |
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